第5部:検出器

15. HPLC用検出器

HPLCでは、試料中の各成分の分離はカラムで行いますが、これを目に見える形に変換しなければなりません。検出器はカラムで行われた分離の結果を電気信号として取り出すためのものです。HPLC用として用いられる主な検出器を表5にまとめました。

(表5)HPLCで使用する主な検出器

 

スクロールできます
検出器 感度 選択性 グラジエント 対象物質
紫外吸光光度検出器
可視吸光光度検出器
吸光物質
フォトダイオードアレイ検出器
(ダイオードアレイ検出器)
吸光物質
示差屈折率検出器 溶離液と屈折率の差がある物質(ほとんどすべての物質)
電気電導度検出器 イオン性化合物
蛍光検出器 蛍光物質
電気化学検出器 酸化還元物質
蒸発光散乱検出器 不揮発性物質
荷電化粒子検出器 不揮発性物質
質量分析計 イオン化する化合物
多角度光散乱検出器 高分子化合物

15-1. 吸光光度検出器

紫外吸光光度検出器 (UV検出器)は、HPLCで最も多用されている検出器です。物質に光を照射すると吸光物質は特定の波長の光を吸収します。吸収される光の波長や量(吸光度)は物質の構造によって異なります。吸光度検出法では、光源の光を回折格子(グレーティング) によって特定の波長に分光してからフローセル(溶離液が通過する検出部位)に当て、吸光度を測定する検出器です。
吸収される光の波長や量(吸光度)は物質の構造によって異なるため、物質による感度差は大きくなります。UV検出器は、紫外領域(195 ~ 370 nm程度)を、可視吸光光度検出器 (VIS検出器)は可視領域 (400 ~ 700 nm程度)を検出します。UV検出器やVIS検出器が特定の波長で検出するのに対して、フォトダイオードアレイ検出器 (PDA検出器)は光源の光をフローセルに当て、通過した光を回折格子で分光し、100 ~ 1024個のフォトダイオードアレイ素子に当てることにより検出を行うため多波長同時分析が可能で、特定の波長のクロマトグラムの他、各ピークの吸収スペクトルも取得できます。

15-2. 示差屈折率検出器

底が丸い器に水を入れると底が浮き上がって見えるという経験はないでしょうか。これは光の屈折によって起きる現象です。光がある物質から異なる物質へ進む時にその境界面で折れ曲がることを光の屈折と言います。示差屈折率検出器 (RI検出器)は光の屈折率の変化を検出します。RI検出器のセルは、溶離液のみが封入されているリファレンスセルとカラムから溶出する溶離液が通過するサンプルセルで構成されています。サンプルセルに流れる溶離液に試料成分が含まれない場合は、両方のセルの液体は同じですので光は直進します。一方、サンプルセルに流れている溶離液に試料中の成分が含まれるとリファレンスセルとサンプルセルで屈折率に差が生じて光が曲がり、検出が可能となります。RI検出器は物質の特性に関係なく検出できるため、他の検出器と比べて非常に汎用性が高く、ピークの大きさと含有量の相関性が高いことなども特徴として挙げられます。一方、RI検出器は他の検出器と比べて感度が低く、グラジエント分析に向かないという側面もあります。このような特徴から特に糖分析やSEC分析によく使用されています。

15-3. 電気伝導度検出器

電気電導度検出器 (CD)は、イオンクロマトグラフィーの検出器としてよく用いられています。電気伝導度は簡単に言うと物質の電気を流す能力のことです。カラムから溶出した溶離液に試料由来のイオン成分が含まれるとイオン濃度が上がり電流が流れやすくなる、すなわち電気伝導度が大きくなります。CDは電気伝導度の変化を検出します。イオンクロマトグラフィーでは溶離液に電解液を用いますが、CDは水溶液中でイオンとして存在しているものすべてが検出対象となるため、溶離液だけでも電気伝導度を示します。溶離液の電気伝導度(バックグランド電気伝導度)が高いとノイズが大きくなり、検出感度が悪くなる傾向があります。そのためCDを用いる検出では、サプレッサー法とノンサプレッサー法の2つの方法が用いられています。ノンサプレッサー法とは、カラムから溶出する溶離液を直接CDに導入する方法で、分析には電気伝導度の低い溶離液を用います。ノンサプレッサー法は、汎用のHPLC装置にCDを設置するだけですので簡単に測定でき、比較的安価に始められます。一方、サプレッサー法とは、サプレッサーという溶離液の電気伝導度を低減させる装置をカラムと電気伝導度検出器の間に配置し、カラムから溶出する溶離液の電気伝導度を下げてからCDに導入する方法です。サプレッサー法は、バックグランド電気伝導度を下げるだけでなく陰イオン分析ではピークレスポンスを上げる効果もあるため高感度分析に適しています。ただし、費用面では専用装置が必要となるためノンサプレッサー法よりも高価格になります。

15-4. 蛍光検出器、電気化学検出器

蛍光検出器 (FL)や電気化学検出器 (ECD)は、いずれも高感度で選択性の高い検出器です。蛍光とは、物質がある波長の光を吸収して異なる波長の光を放出する現象のことで、吸収する光(励起波長)と放出する光(蛍光波長)は物質によって異なります。FLは、励起極大波長 (Ex)と蛍光極大波長 (Em)を設定して分析種を検出します。一方、ECDは、溶離液に対して一定の電圧が印加された作用電極上で分析種が酸化または還元される時に生じる電流を測定することで検出します。

15-5. 蒸発光散乱検出器、荷電化粒子検出器

蒸発光散乱検出器 (ELSD)や荷電化粒子検出器 (CAD)は、カラムから溶出する溶離液のみを蒸発させて分析種を微粒子化させます。ELSDは微粒子に光を当て、その散乱光を測定して検出します。一方、CADはコロナ放電により電荷を持った窒素ガスが微粒子と衝突する事により荷電化させて電気的に検出します。どちらもRI検出器と近い用途に用いられますが、RI検出器よりも高感度に検出でき、グラジエント分析も可能です。ただし、どちらの検出器も溶離液を蒸発させる必要があるため溶離液に不揮発性塩類は使用できません。

15-6. 質量分析計

原子や分子は質量を持っており、物質は原子や分子が集まってできています。質量分析計 (MS)は、物質をイオン化し、イオンをm/z(質量電荷比)によって分離した後、検出します。MSを用いることで物質の質量情報や構造解析の情報を得ることができます。また、MSは高感度検出ができるという点からLC/MSとして普及しています。

15-7. 多角度光散乱検出器

高分子溶液に光(レーザー)を照射すると、その光と同じ波長で散乱(レイリー散乱)します。その光散乱の強さ(光散乱強度)は、分子量の大きさに関係します。多角度光散乱検出器 (MALS)は、この性質を利用し、高分子の分子量を直接測定することが可能です。通常、SECによる分析種の分子量分布測定では、較正曲線に使用する標準試料の相対分子量として求めますが、MALSと組み合わせて測定すれば、絶対分子量による分子量分布測定が行えます。

15-8. その他検出器

上記検出器の他、光学活性のある物質の旋光度を測定する旋光度検出器、化学反応によって励起された物質が基底状態に戻る時に発する光を検出する化学発光検出などがあります。