Shinoセンパ~イ!前回は水中のチウラム、シマジン、チオベンカルブが迅速捕集(50mL/min)できましたよね。大気用の迅速カートリッジもありますか?
Autoprep PS@Gasがあるわ。
これもスチレン-ジビニルベンゼン共重合体(ポリスチレン)を充填した固相抽出カートリッジですね。
充填材の素材は同じだけど、水用との違いは...
粒子径が違うみたいです。PS@Liqは平均粒子径が80ミクロンだったけど、PS@Gasは300ミクロンだそうです。 大きな充填材でないと、大気は捕集できないのかも...
違いは粒子径のようだけど、水用に大きな充填材を使った固相抽出カートリッジは本当にないのかしら?
25ミクロンと小さいものもあるし、アルミナには50~300ミクロンという分布の広いのもあるけど、これは例外みたい。水用には、だいたい40~100ミクロンくらいの粒子径が採用されているようです。
つまり、40~100ミクロンの充填材を使って10L/minで通液するのが、一般的な水用の固相抽出カートリッジの使い方のようね。大気の方はどうかしら?
大気用の固相抽出カートリッジって、少ないですね。フィルター捕集が主流みたいです。DNPHカートリッジの場合は、JISに「1.5L/minでの通気が実現できる充填材」と書いてあります。それにしても大気捕集の速度は、水サンプルに比べて格段に速いですね。
PS@Gasなら、従来難しかった15L/minでも通気できますよ。
出たぁ~。開発者さん、どうして速く通気できるの?大気用充填材にも、2重細孔の概念を応用したとか?
その通りです。どんな概念だったか覚えてますか?
充填材の内部には、液の流れ易い大きな孔と捕集のための小さな孔があって、PS@Liqシリーズでは、この細孔分布バランスを最適化してました。だから速く流しても圧力損失が大きくならず、しかもキチンと捕集できるんでしたよね。
そうです。PS@Gasの場合も、充填材の細孔分布と粒子径を大気用に最適化しています。その結果、15L/minと いう高速通気が可能になったんです。目的物質もきちんと捕集できます。クロロベンゼンの添加回収率をみてください。
480L通気するのに4L/minだと2時間かかるけど、12L/minなら40分!PS@Gasなら3分の1の時間で、しっかり捕集...あれ?エチルベンゼンが捕集できてませんね。
理由を考えてみてください。
カートリッジのせいじゃないみたいですね。だって、市販品Bを4L/minで使った時でもエチルベンゼンの回収率だけ低いんですもの。
サンプルの物性を調べてみましょう。
1時間後
Shinoセンパイ、エチルベンゼンのLogPowは3.03だし、構造的にも芳香族だから、充填材のポリスチレンと馴染みがいいはずなのに...どうして、回収率が低いのかしら?
プロトコルから、考えてみたらどうかしら?
この実験はカートリッジに目的物質を添加してから通気し、その後、有機溶媒を使って目的物質をカートリッジから溶出させて回収率をみています。
目的物質を溶かした空気を使えばいいのに...
モデルガスを使う方法は、カートリッジにガスを導入する途中での吸着を防ぐ必要があり、操作が難しいので、簡易的な方法を採用しました。つまり、カートリッジに添加した物質が通気によってブレークスルーしないならば、大気捕集の際にも捕集できるだろう、という考え方です。実際には、アセトニトリルに3物質を溶かして、PS@Gasのカートリッジの入り口側にマイクロシリンジで添加し、10分間放置後、 活性炭カラムで浄化した室内空気を通気しました。
ポンプで通気したんですか?
カートリッジの下流側から真空ポンプで480L、空気を吸引したんです。その後、アセトン10mLでカートリッジから溶出して、そのまま測定しました。アセトン溶出液を濃縮する時に、一緒に蒸発してしまう物質もありますからね。
蒸発? そうか! 蒸気圧が問題なのね。
ピンポーン!
(あら、開発者さんて案外面白いヒトかも...)
エチルベンゼンは蒸気圧が1.3kPaと、他の2物質よりも大きいから、捕集中もどんどん蒸発して回収率が低くなっちゃうんですね。それなら、固相カートリッジを冷やしながら捕集したらどうかしら?
カートリッジ内部で結露しちゃうかも...
結露すると何がいけないんですか?
気体を捕集しているときに水滴ができたら、その部分は気体が流れませんよね。目詰まりしたり、表面積が少なくなって、捕集効率が下がる可能性があります。
充填材の孔や充填材と充填材の隙間に水が詰まるんですね。やっぱり冷やしながら捕集するのはダメですね。
蒸気圧が高い物質の捕集は難しいのね。
大気捕集の時は目的物質の蒸気圧を調べることにします。
蒸気圧の問題は、水サンプルの時にも気をつける必要があると思わない?
カートリッジから目的物質を溶出させた溶媒を濃縮する時ですね。目的物質の蒸気圧が高い場合は、溶媒を濃縮する時に目的物質も一緒に蒸発してしまいますもんね。
もう一ヶ所注意して欲しいな。
どこかしら?
操作手順を思い出してみましょう。
水サンプルを調製します。
固相カートリッジをコンディショニングして、通液。
少量の水で洗ってから、窒素ガスを吹き付けて、カートリッジを乾燥させて...あ!そうか!ここで蒸発しちゃうんですね。
GCで測定する場合は、カートリッジを乾燥させる工程が不可欠だから、蒸気圧の高い目的物質の場合は、窒素ガス吹きつけによる脱水よりも、遠心脱水する方が、いいかもしれないわね。
はーい、覚えておきます。
ところで、PS@Gas、使ってみますか?
ええ、室内空気中のクロルピリホスで試してみます。
小児のクロルピリホスの指針値は0.1μg/m3と、とても低いですものね。
10L/minで2時間捕集しても定量下限値をクリアするのが難しいんです。だからPS@Gasを使って15L/minで2時間捕集してみます。1.5倍量の空気を引けば、測定精度があがるんじゃないかと思うんです。
いい考えだわ。クロルピリホスの蒸気圧は大丈夫?
ええ、大丈夫です。さっき、開発者さんに教えてもらった簡易チェック方法で試してみます。
PS@Gasにクロルピリホスを添加してから15L/minで2時間通気しても回収率が高ければ、OKってわけね。
さて、翌日
Shinoセンパイ。15L/minで通気してもブレークスルーしなかったので、大量捕集するっていうのは、いい方法ですね。
空気を大量捕集したときには目的物質と同時に妨害成分も大量に捕集されるわけで、原理的にはS/Nは変わらないわけだけど、MSで測定する時には有効かもね。
大量捕集って、ホント便利ですね。水の時にも使えないかなぁ。開発者さんは、大気用充填材に適した粒子径があるって言ってたけど、こんなに早く流せるんだから、PS@Gasで、水サンプルが1L/minで引けたらステキじゃない?試してみたいです。
目的物質を溶かした空気を使えばいいのに...
モデルガスを使う方法は、カートリッジにガスを導入する途中での吸着を防ぐ必要があり、操作が難しいので、簡易的な方法を採用しました。つまり、カートリッジに添加した物質が通気によってブレークスルーしないならば、大気捕集の際にも捕集できるだろう、という考え方です。実際には、アセトニトリルに3物質を溶かして、PS@Gasのカートリッジの入り口側にマイクロシリンジで添加し、10分間放置後、活性炭カラムで浄化した室内空気を通気しました。
1週間後
やっぱ、ダメでした。シマジンの場合は、PS@Gasでも10mL/minで捕集できたけど、流速を上げると回収率が下がってしまいました。PS@Liqならスキッと溶出できるチオベンカルブが、PS@Gasだとダラダラ出てきたし...水用に80ミクロン、大気用に300ミクロンという粒子径は、それなりに理由があったんですね。いい勉強になりました。
チオベンカルブがダラダラ出て来たのには、まだまだ、いろんな理由がありそうです。皆さま、ぜひ考えてみてください。