Shinoセンパーイ、標準サンプルをひとつしか入れないのに、ピークがふたつ出るんですよ。ODSでキラル分割ができるのかしら。もしかしたら、世紀の大発見かもしれませんね。
どれどれ。う~ん、確かにピークはふたつだけれど、どんな条件で測定したの?
溶離液は、水とメタノールの比が1対1で、検出はUV吸収です。依頼測定のサンプルなんですが、芳香族化合物としか聞いていません。
そのサンプルに不純物が入っているんじゃないの?
コンタミしているのかなぁ。やっぱり、旋光度検出器のShodex OR-2(販売停止)を使ってみたほうがいいんじゃないですか? (キラル分割しているに違いないわ)
そのサンプルを見せてくれる?(匂いを嗅いでみて)サンプルは何に溶かしたの?
お客さまからヘキサンに溶かすようにと指示があったんです。それがいけなかったですか?
いけないわ。ヘキサンには溶けても水/メタノールで析出するサンプルかもしれないじゃない?溶解度は低くても、サンプルは原則として溶離液に溶かしてね。析出してカラムの入口に詰まってしまう場合もあるのよ。
は~い。やってみます。
しばらくして
Shinoセンパイ、ピークがひとつになりました。
よかったわね。
でも、せっかく世紀の大発見かと思ったのに…。
おやおや、何の発見をしたのかな?
ODSでのキラル分割法を発見したのかと思ったんです。考えが甘いですよね。
甘くはないさ。ODSで可能だという報告もあるんだよ。ただし、工夫は必要だけどね。
センパ~イ、教えてください!
溶離液に疎水基を持ったキラルな分子を加えておくと、疎水基がオクタデシル基に吸着して、しかもキラルな構造部分が、例えばサンプルのD体を捕まえるとするね。このD体は溶出が遅れるけれど、サンプルのL体の方は素通りするから、DL分割ができるという寸法なんだ。溶離液に加える分子としてはd-カンファースルホン酸がよく知られているね。もっとも、どんなサンプルを分離するかにもよるけどね。
フーン、賢くなっちゃった。
おもしろそうですね。今度試してみようっと。
さてさて、ふたりとも仕事の方はいいのかな。
ハ~イ
そして、夕方
Shinoセンパ~イ、今度はピークが出てこないんです。どうしちゃったのかなぁ。
ラセミ体だと、旋光度検出器 OR-2では、検出できないよね?
からかわないでくださいよ。UVで測定してますってば。
さっきの条件のままなの?
ええ。サンプルは3-フェニルプロピオン酸を、溶離液に溶かしたんですよ。
有機酸かぁ。溶離液にリン酸を0.1%くらい加えたらどうかしら。
どうしてですか。
まぁ、やってみてよ。
そして、1時間後
Shinoセンパイ、ピークが出てきたわ。不思議ですね。吸着していたのかしら。
リン酸を加える前のデータは、フロッピーディスクに保存してあるんでしょ?感度を上げて描いてみましょう。
あら~。これが、そうかな? リン酸を入れた時よりも早い時間にダラダラしたピークで溶出されてるんですね。ということは、吸着ではなくて、排除だったのかしら……。
残存シラノール基の影響らしいの。シリカシリーズのC18-5A(現:C18M 4D)は、残存シラノール基が少ないそうだから、リン酸をいれなくてもうまくいくかもしれないわ。比べてみましょう。
わぁ、おもしろい。探偵ごっこみたいですね。
さて、翌日
Shinoセンパ~イ、C18-5A(現:C18M 4D)の方は、リン酸なしでもうまくいきましたよ~。勘が当たりましたね。
勘じゃないわ。論理的と言ってよ。
C18-5A(現:C18M 4D)はシラノール基が、全然残っていないんですね。
そうかもね。
おふたりさん。さっきから聞いていたんだけど、今度こそ考えが甘いよ。「全然」とか「絶対」なんて、科学者が口にしてはいけない言葉だよ。C18-5A(現:C18M 4D)に残存シラノール基が少ないのは確かだけれど、サンプルによっては、リン酸を加えた方がいい場合もあるだろうね。
(小さくなって)ハーイ
さてShinoちゃん、サンプルが塩基性物質だったら、どうすればいいのかな。
エート、エート……。
ヤーイ、Shinoセンパイは、塩基性物質で失敗するヨ~。論理的なんていばるからですヨ~。
(後輩が笑いながら逃げていきます。きょうも、研究所は平和なのです。)
先輩が残存シラノール基やODSの上手な使い方について、説明を書いてくれたので、「ODSとシラノール」のページも読んでね。
参考文献
- P.J.V.D.DRIEST and H.J.RITCHIE et al, LC-GC Vol.6, No.2, 124(1998)
- J.W.DOLAN, LC-GC, Vol. 4, No.3, 222(1986)
- H.ENGELHARDT and M.JUNGHEIM, Chromatographia, Vol.29,No.1/2(1990)