Shinoセンパ~イ!試料溶液の調製方法や固相カートリッジの選び方って、何か基準がありますか?
どんな物質を捕集したいの?
水質中のフェノールとクレゾールです。要調査項目等調査マニュアルの「ⅶ フェノール類の分析法」(平成12年12月)を見ているんですけど、考え方がよくわからないんです。
操作フローを整理してみましょう。 詳細はこちら→アプリケーション食品分野「フェノール・クレゾール」
水質試料にNaClを加えて20%食塩水に調製してますが、飽和食塩水にしてるってことですよね。濃すぎませんか?
誘導体化の時も、20%食塩水を加えてるわね。
誘導体化の方はわかります。だって、フェノール類はPFBB(臭化ペンタフルオロベンジル)で誘導体化されて疎水性物質に変わるから、確実にヘキサン転溶するための塩析効果を狙って、食塩を加えてるんですもの。
水質試料の調製の時も同じ考え方だとしたら?
試料溶液を飽和食塩にして、フェノールやクレゾールに塩析効果を期待するんですか?
もし、そうだとしたら?
水に溶けにくくなるから、相対的に疎水性が強くなって・・・そうだ!充填材に吸着し易くなります。
pHを低くしているのは?
もう、わかりました。塩の添加と同じです。フェノール性OH基の解離を抑えて相対的な疎水性を強めているんです。
その通りよ。フェノールもクレゾールも親水性物質だから、捕集にはこういう工夫が必要なのよね。
Shinoセンパイ。もし水質試料に酸性物質が含まれていたら、同じように相対的に疎水性が高まって一緒に充填材に吸着されるんじゃありませんか?
例えば、どんな物質?
フルボ酸です。フミン酸を酸性下で沈澱除去した残りはカルボキシル基やフェノール性水酸基を多く含む高分子有機酸のフルボ酸だそうです。
あら、よく勉強したわね。高分子除去効果のあるEDS-1充填材が使われている理由は、そこにあるのかも。
高分子除去効果って、まさかGPCモードのことですか?
EDS-1充填材は、細孔径がとても小さいの。だから高分子は充填材の内部にまで浸透できず、充填材の外側に吸着する分だけで済むの。一方、フェノール類は小さな分子だからEDS-1充填材の内部に浸透して吸着できるっていうわけ。
GPCモードが働いているのなら、どうして充填材の外側にフルボ酸が吸着するんですか?
GPCモードが成立する条件を覚えてる?
充填材と試料溶液の極性が等しい時にGPCは成立するんですよね。GPCクリーンアップの時に、PS(スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)充填材にはアセトン/シクロヘキサン=2/8でGPCが成立してたわ。
では、今の条件は?
EDS-1はN含有ジビニルベンゼン-メタクリレート共重合体で、試料溶液がpH3の飽和食塩水ってことは、う~ん、贔屓目に考えても、GPCは成立しそうにないですね。
この分析ではGPCモードは成立していないけど、充填材内部にフルボ酸は入れないから、細孔表面はフルボ酸でマスキングされることなく目的物質であるフェノール類の捕集に有効に使えるってことなの。ま、充填材の外側に吸着するフルボ酸くらいは我慢してよね。
ところで、N含有ジビニルベンゼン-メタクリレート共重合体って、どんな充填材なんですか? ジビニルベンゼンがあるから、PS充填材に似ている気がするんですけど。
充填材の原料であるモノマーの構成を調べてみましょう。ジビニルベンゼンは充填材の骨格を作るために必要な架橋剤で、全体の半分以上を占めているのよ。
EDS-1にもジビニルベンゼンがたくさん入ってるんですね。PSに似ているかも?っていう私の勘は合ってたんだ。じゃあ、捕集にはπ-π相互作用が働いてるんですね?
そう。残りの成分がその捕集力を助けているのよ。
PS充填材の方はスチレンの芳香環を加えて、かなり強い疎水性が特徴のようですね。EDS-1充填材はエステル基やアミド基がどんな助けをしているのかしら?PS充填材の吸着力を弱める効果を狙っているとか?
EDS-1はPSでは捕集が難しいフェノールのような物質でも捕集できるのよね。サンプルの構造にヒントがないかしら。
フェノールもクレゾールもフェノール性水酸基があります。えーとベンゼンのLogKowは2.13、トルエンのLogKowは2.73だから、水酸基がついただけでずいぶん親水性が高くなっています。充填材の親水基が親水性相互作用でフェノールをおびき寄せてる、な~んてね。
その通りよ!
え? ホントですかぁ。
EDS-1充填材の表面のエステル基やアミド基に、フェノールの水酸基が水素結合の力で引き寄せられると・・・
充填材基本骨格のベンゼン環がパクッとフェノールを捕まえる、というわけですね。(アンコウみたい。)もっと複雑な構造のサンプルでも捕集可能なのかしら?
エストラジオールおよびその代謝産物(平成15年3月、要調査項目等調査マニュアル p176/187)にも採用されているわ。代謝産物のように親水性が非常に高い物質でも、EDS-1ならフェノール性水酸基を利用して効果的に捕集できるのね。
フェノール性水酸基を持っていたら、EDS-1充填材ですね。これでよくわかりました。
充填材のエステル基やアミド基と水素結合を作る物質で、残りの構造にアルキル鎖や芳香環を持っている物質ならたぶん、OKよ。だから、捕集計画を立てる時は構造式をきちんとチェックしてね。
忘れちゃ困るんだよね。そもそもEDS-1は充填材にジビニルベンゼンが入っているんだから、疎水性の強い物質の捕集にだって有効なんですよ。
例えば?
ベンゾ[a]ピレンのような多環芳香族だって、ちゃんと捕集できるんです。
EDS-1でいいなら、PS充填材の存在意義がないわね。
EDS-1は細孔径が小さいので、10mL/min程度の流速で通液する必要があります。でもPS@Liqなら50mL/minでも大丈夫なんですから、検体の種類によって使い分ける方がよいでしょう。
ついでに、他の逆相系充填材との吸着力の違いがわかるとうれしいんだけど。
簡単な表を作りましたから見てください。詳細は「知っておきたい固相抽出の基礎」にまとめました。 詳細はこちら→分離・分析の原理
開発者さん、ありがとう。最後に何か言い残したことは?
言いたいことはたくさんあるけど、そうそう、フェノール類の分析の際には(1)揮発し易いので、検水瓶はきちんと蓋をしてコンタミを防ぐこと。(2)アセトンは使用しないこと。クメン法で製造したアセトンには、フェノールが含まれていますからご注意ください。