塩を含むサンプル中の糖分析 なんとか、楽をできないでしょうか?

後輩

Shinoセンパイ、久しぶりですねぇ。去年のShodexセミナーのテーマは『食品中の糖とその分析』で、とっても勉強になったんですよ。もっとフラクトオリゴ糖を採らなくちゃって思いましたよ。

Shino

それで、最近、甘いものにうるさいのね。

後輩

任せてください。そもそもsugarの定義をご存知ですか?

Shino

まぁ、何か新しい情報仕入れてきたのね。

後輩

詳しくは奥先生の講演要旨を読んでくださいね。ところで、糖分析のこと、まだ覚えてますか?

Shino

大丈夫よ、何でも聞いてちょうだい(ホントは少し心配・・・)。

後輩

今回、改めて感じたんですけど、糖はUV吸収もないし、誘導化なしで測定しようとするとサンプルの前処理が大変なんですよね。確か、KS-801は、塩がたくさん含まれていても糖が測定できるカラムでしたよね。どうして、このカラムだけ脱塩しなくても大丈夫なんですか?

Shino

SUGARシリーズの分離原理について勉強したこと、覚えてる?

後輩

SUGARシリーズは、スルホ基 (●-SO3-)を結合させた充てん剤に対イオンとしていろいろな金属イオンをつけたカラムです。この金属対イオンとの配位子交換によって糖が分離できるんです。 (注1)SUGARシリーズの中でも、KS-801カラムは対イオンがNaですね。それがどうして、塩を含むサンプルに効果的なのかしら。

  • (注1)糖分析 (1 : SUGARシリーズ)をご参照ください。
Shino

配位子交換のカラムは、なぜ劣化するんでしたっけ?

後輩

えーと、確か、充てん剤は対イオンの種類によって膨潤度が大きく違うから、金属イオンの種類が変わってしまうと、充てん剤が収縮したり膨潤したりして、カラムがだめになるんだと思います。あ!、そうかぁ。塩を含む食品って、たいてい、しょっぱい。つまりNaClがたくさん含まれてるんだわ。でも、KS-801カラムの対イオンはNaなんだから、サンプル由来のNaイオンがいくら入ってきても、金属イオンの種類には変化がなくて、カラムが劣化しないっていう訳ですね。

Shino

そうよ。それに、もっとすてきなことには、KSシリーズの場合、塩は排除されて一番始めに出てくるの。単糖や2糖と溶出位置が重ならないから、塩を多く含むサンプル中の糖を測るのには便利よね。

後輩

イオン反発で排除されるのなら、有機酸も排除されますか?

Shino

いいところに気がついたわね。有機酸も排除されて、一番始めに出てくるのよ。

後輩

Shinoセンパイ、何か見本はありませんか?

Shino

ウスターソースを希釈して、そのまま測定した例があるわ。

(図1)Sample : Worcester sauce
Column
Shodex SUGAR KS-801 (8.0mmID*300mm)
Eluent
H2O
Flow rate
0.7mL/min
Detector
Shodex RI
Column temp.
80℃
後輩

ピーク1の位置に塩や有機酸が、多糖類と一緒に溶出されているんですね(図1)。脱塩の手間がいらないなんて、便利だわぁ。ねぇ、Shinoセンパイ。ウスターソースには、Na以外にもMgのような金属イオンが含まれていると思うの。カラムの寿命を考えたら、溶離液はNaCl水溶液のほうがいいのかしら。

Shino

そうねぇ、確かに寿命は長くなるわね。でも、溶離液に塩を加えるとイオン反発が押さえられるから、NaClのような塩は排除されても、解離の小さな有機酸は溶出が遅れる可能性があるわね。カラムを長持ちさせたければ、10サンプルに1回くらい、再生液を注入する方がいいわ。どうせ、オートサンプラーにセットしておけばいいんだから、簡単でしょ。

後輩

ガードカラムも付けて!、ですよね。

Shino

もちろんよ。KS-801カラムでの、各種の糖の溶出位置については、Shodexのホームページでチェックしておいてね。

後輩

はーい。次は、前処理による脱塩方法も教えてください。

Shino

陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を通すのが、最善よね。

後輩

でも、もっといい手があるんでしょ?

Shino

NaClを除くだけなら、簡単な方法があるわ。

後輩

わー、教えてください。

Shino

Ag型の陽イオン交換樹脂を使うのよ。

後輩

塩素はAgClとして沈殿するし、Naは陽イオン交換樹脂に付くから、処理したサンプルのpHも変わらないんですね。イオン交換樹脂をひとつしか使わないのに、楽ちんでいいわぁ。

Shino

Ag型陽イオン交換樹脂の作り方は、図2を見てね。

後輩

これは作り置きができるんですか?

Shino

冷蔵庫で1ヶ月くらいは保存できるわ。でも黴びないように注意してね。分かってると思うけど、AgClが沈殿してしまうから、再生はできないのよ。

後輩

前処理用のイオン交換樹脂を作っておくか、ガードカラムを頻繁に交換して対処するか、それが問題だ。

Shino

あなたの場合、ガードカラム交換の方がトラブルが少なくて良いんじゃない? 案外、陽イオン交換樹脂で処理したサンプルをろ過し忘れてカラム圧が上昇する、なんてことが起きそうだもんね。

後輩

当たってるだけに悲しい。

Shino

私はね、1ヶ月に1回の交換で済むようなサンプルの場合は、サンプル前処理よりも、ガードカラム交換を選んでいるわ。前処理用樹脂に測定対象物が吸着しないかどうかもテストしなければならないし、結構大変なんだもの。

後輩

分かりました。よーく考えて選びたいと思いまぁす。

Ag型陽イオン交換樹脂の作り方

  1. (1)陽イオン交換樹脂としては、Bio-Rad 50W-X12(200~400 mesh)または同等品を使用する。
  2. (2)100gの陽イオン交換樹脂に1M AgNO3を600~800mL加え、1時間以上攪拌する。
  3. (3)攪拌後、ガラスフィルターでろ過する。
  4. (4)ろ過後、純水で洗浄する。イオンクロマトグラフィを用いて、ろ液にNO3イオンが出なくなることを確認できるまで洗浄を続ける。
  5. (5)ディスポーザブルシリンジの先端に綿を詰め、その上に洗浄した陽イオン交換樹脂1gを充てんする。残りの陽イオン交換樹脂は冷蔵庫に保管すること。
  6. (6)サンプルを0.75mL、ディスポーザブルシリンジを通し、最初の濾液は捨てる。
  7. (7)再びサンプルを0.75mL、ディスポーザブルシリンジを通し、このろ液を採り、0.45μmのディスポーザブルフィルターで濾過後、HPLC用サンプルとする。