ODSとシラノール

オタクデシル基結合シリカゲル(ODS)は高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で最も多く使われている充てん剤です。ODSと一口に言っても、 メーカーが異なると同じ分離を示さないことがしばしばあります。また、同じメーカーでもロット毎に分離が微妙に異なることもあります。 この原因について考えてみましょう。

ODS固定相

ODS充てん剤には図1-(A)に示すようなモノメリック相と図1-(B)の様なポリメリック相があります。ODSカラムを使用するとき、モノメリック相かポリメリック相かによって試料の分離特性が少し違うことに注意する必要があります。

エンドキャッピング

シリカゲルのシラノール基にオクタデシルシラン化合物を反応させてODS充てん剤をつくりますが、シリカゲル表面の全てのシラノール基が反応するわけではなく、せいぜい全シラノール基のうちの50%までしか反応しないと言われています。残存するシラノール基が塩基性化合物のピークをテーリングさせたり、吸着させたりします。
そこでこの残存シラノール基を除くためにトリメチルモノクロルシランの様なシラン化合物を結合させることをエンドキャッピングと呼んでいます。しかし、完全にシラノール基を除くことは非常に困難です。残存シラノール基には図2に示したようにIsolated、Vicinal およびGeminal シラノールの3種類があり、試料の吸着特性が異なります。
ここで注意しなければならないことはシラノール基の残ったODSカラムがかならずしも悪いカラムではないと言うことです。一般にシラノール基の残った酸性のカラムは酸性物質の分離に優れており、シラノール基の少ないカラムは塩基性物質の分離に優れていると言われています。
シラノール基はエンドキャッピング後に残ったものばかりではなく、Engelhardt等によれば、水-メタノールでODSカラムを1年間保存して置いたところ、Si-O-Si結合が加水分解されてシラノール基が生成されたという報告もあります。 では、残存したシラノール基がどのように分離に影響するのでしょうか。

シラノール基と試料の相互作用

まず初めに塩基性試料とシラノール基との相互作用を考えてみます。試料を三級アミンとすると次のような相互作用が考えられます。

  1. (1)イオン交換作用
    (R3NH+) + (Na+)-OSiR →← (R3NH+)-OSiR + (Na+)
  2. (2)水素結合作用
    (R3N:) + HOSiR →← (R3N:)…H…OSiR

この様なシラノール基と塩基性試料との間の相互作用を防ぐには溶離液にトリエチルアミン (TEA)を1~20mM添加すると良いと言われています。
この場合溶離液のpHはシラノール基の解離をできるだけ小さくするため 2.5~3.5 に下げます。TEAの他に溶離液にK+等の陽イオンの量を増して溶離液のイオン強度を高くする方法もありますが、アンモニウムイオンやアミン類を添加したほうがさらに効果があります。
次に有機酸とシラノール基との相互作用を考えてみます。有機酸にもピークのテーリングが観察されることから、 (HSi-*) の存在が推定できます。その相互作用は次に示すようなものだ考えられます。

RCOOH + -OSi-* →← R-COO…H…OSi-*

有機酸ピークのテーリングは溶離液に1%酢酸を加えると良いと言われています。
一般に「シラノール基によるピークのテーリングを改良するには、試料と同じような構造をした添加剤を溶離液に加えるとよい」という経験則があります。試料が有機酸とアミン類の混合物の場合は酸と塩基の溶離液添加剤を加えると良いでしょう。