第2部:HPLC用カラムの原理・分類
目次
6.カラムによる分離の原理
7.HPLCでの分離
8.充てん剤の種類によるカラムの分類
8−1.シリカゲル
8−2.ポリマーゲル
8−3.その他のゲル
9.分離モードによるカラムの分類
6.カラムによる分離の原理
HPLCではカラムの中で分離が行われています。このカラムの中ではどのようにして試料中の成分を分離するでしょうか。これを「飲み屋横町」に例えて説明します。
飲み屋横町に、課長で酒豪のAさん、その部下で同じく酒豪のBさん、ほどほどに酒好きのCさん、ほとんど下戸のDさんの4人が入りました。
まず、最初の居酒屋に4人で入りました。ここでの一次会が終わった後で、課長のAさんに無理矢理誘われて義理でつきあっていたDさんがまず帰り、残りの3人は二次会にバーに行き水割りを飲み直しということになりました。Cさんはここで帰りましたが、AさんとBさんは三次会にスナックでカラオケを唄いながら飲み直しということになり、結局2人でスナックが看板になるまで飲み続けました。
これを飲み屋横町の出口から見ると、まずDさん、次いでCさん、最後にAさんとBさんが一緒に出てきたことになります。この飲み屋横町での滞在時間の長さで、4人のお酒の強さがわかるわけです。
HPLC用カラムの中には充てん剤と呼ばれる粉(「ゲル」といいます。)が詰められて(カラムに詰めることを「充てんする」といいます。)います。このゲルは直径が3〜15ミクロン(μm=1/1000mm)程度の非常に細かいものです。このゲルには色々な「仕掛け」が施されており、試料中の各成分がカラムの中に滞在する時間が、各成分と「仕掛け」との係わりあいで異なってくるため、この差を利用して各成分の分離が可能となります。
飲み屋横町の例でいえば、何軒もある飲み屋が「仕掛け」に相当し、各人の酒の強さというファクターで分離が可能となった訳です。ただし、分離は条件を変えれば違う結果を得ることができます。例えば、Dさんは無理矢理付き合わされなければ、一次会の居酒屋にも寄らずに帰ったかもしれません。逆に、Aさんが部下のB、C、Dさんに対して強権を発動して、絶対最後まで付き合えといえばC、Dさんも無理して三次会のスナックまで付き合うかもしれません。この、分離の条件を変えるということは、液クロの場合で言えば溶離液の組成やpH(酸性あるいはアルカリ性の度合いを示す指標)を変えたり、カラムの温度を変えたりということになります。このような、条件を変えることにより分離できなかった成分が分離できたり、分離できていた成分が分離できなくなったりする点が、液クロの難しいところでもあり、分析技術者の腕の振るいどころでもあります。
また、同じ「仕掛け」を使って条件を変更することにより分離が可能になる場合と、その「仕掛け」ではどうしても分離ができず、別の「仕掛け」を使わなければならない場合とがあります。前者の場合は、同じカラムを使って分離の条件だけを変えて分離を行うということであり、後者の場合は、別の種類のカラム使って分離を行うということになります。
HPLC用カラムの場合には、充てん剤の基となっている物質(「基材」といいます)に様々な種類のものがあり、また基材は同じでもその上に様々な化学修飾(官能基などをつけること。これについては11で説明します。)をすることにより、多種多様なカラムが用意されています。Shodexのカラムの場合には、カラムの種類の総数は800種類にもなっています。逆に言えば、この800種類のカラムの中から、試料に最も適したカラムの選択を行うことが必要となる訳です。
7.HPLCでの分離
HPLCのカラムで分離された試料中の成分を検出器で検出して記録すると理想的には(図−5)のa)に示すような左右対称の図形(ピークといいます)が得られます。
何か測定上の問題点があると、左右対称とはならず、b)に示すようにピークの前に尾を引いたり(これをリーディングといいます)、c)に示すようにピークの後に尾を引いたり(これをテーリングといいます)します。カラムの欠陥により、リーディングやテーリングが現れることもあり、ユーザーからのクレームを受けることもあります。
また、ピークの形はなるべく幅が狭いことが望まれます。(図−6)のa)に示すように性能の良いカラムでは幅の狭いピークが得られ、b)に示すように性能の良くないカラムではピークの幅は広くなります。
このようなカラムの性能を示す値として「理論段数」というものが用いられています。理論段数が高い(数字が大きい)ほど良いカラムであるといえます。
なお、理論段数はカラム長さに比例しますので、カラムの長さを2倍にしたり、カラムを2本つないだりすれば、理論段数も2倍になります。Shodexカラムと他社のカラムの理論段数を比較する場合にはカラムの長さが同じかどうかを確認する必要があります。また、Shodexの場合はカラム1本当たりの理論段数をカタログに表示していますが、メーカーによっては1m当たりの理論段数を表示するような場合もありますので注意が必要です。カラムの内径が変わっても理論段数は多少変化しますが、長さの場合のように変化が顕著ではありません。また、同じカラムと試料を用いても装置や測定の方法に違いがあると理論段数が変わってくることがありますので注意してください。
次に、試料中の2つの成分を分離する場合を考えます。(図−7)のa)に示すようなベースラインで完全に分離された2つのピークが得られれば理想的ですが、2つのピークが近すぎるとb)、c)に示すような2つのピークが合成されたピークとなり、不十分な分離となります。理論段数が高いカラムの場合はそれぞれのピークの幅が狭いのでピークの重なり合う可能性が理論段数の低いカラムに比べて少なくなります。
 |  |  |
a)正常ピーク b)リーディング
c)テーリング |
a)高理論段数 b)低理論段数 |
a)分離良 b)分離やや不良
c)分離不良
|
| (図−5) | (図−6) | (図−7) |
また、ピークの重なり合う場合でも、溶離液を変えるなど分離の条件を変えることによりピークの重なり合いを防げる場合もありますが、測定条件を変えることによりピークの重なり合いを防ぐことができなければ、カラムの種類を変える必要があります。
試料中にどのような成分が含まれているかを知るだけの目的のためには(これを定性分析といいます)、b)、c)のような重なり合ったピークでも目的は達成されますが、試料中に含まれる成分の量を知るためには(これを定量分析といいます)a)のような分離ができていなければ成分の量を正確に測定することはできません。
8.充てん剤の種類によるカラムの分類
8−1.シリカゲル
シリカゲルは最も一般的な充てん剤として広く使用されています。シリカは珪素の酸化物で化学式で表せばSiO
2となります。身近な例としては、煎餅などの菓子袋の中に乾燥剤として入っていて、「食べないで下さい」と書いてあるものです。ただし、乾燥剤として使われているものは直径1mm以上の大きなものですが、充てん剤として用いられるものは直径数μm〜数十μmの非常に細かいものです。
シリカゲルには、不定形のもの(破砕状ゲルといいます)とボールのような球形のもの(球状ゲルといいます)の2種類があります。昔は、破砕状が一般品、球状が高級品というイメージがありましたが、現在では、シリカゲルといえば球状品がほとんどです。また、シリカゲルは表面に孔の開いているものが用いられています。孔が開いていることにより、孔のないものに比べて、表面積が大きくなります。この孔の大きさは非常に小さいので、オングストローム(1メートルの百億分の1)という単位で表示されます。また、孔の開いているシリカのことを多孔性シリカまたは英語でポーラスシリカ(ポーラスは英語で「孔の開いた」という意味)といいます。
シリカゲルの性能を表す指標としては次のようなものがあります。
1)形状:球状または破砕状。球状の方が高価で高級品で、現在ではほとんどのシリカカラムが球状ゲルを使用しています。
2)粒度:最近はだんだん細かいものが開発されており現在は5μmのものが主流となっています。さらに細かい2〜3μmのものも開発されています。粒度が細かくなると、カラムのサイズを小さくして測定に必要な時間を短縮することができます。
3)細孔径:ゲルに開いている孔の口径です。これは、大きければ良いとか小さければ良いとかいうものではなく、サンプル中の成分の大きさに見合った大きさのものを選択することになります。
4)比表面積:単位面積あたりのゲルの表面積です。粒度が小さくなれば比表面積は大きくなり、同じ粒径のゲルでも孔がたくさん開いていれば比表面積が大きくなります。他の指標が同じならば、比表面積が大きい方が良いといえます。ごく標準的なシリカゲルの場合で、1gのシリカゲルの表面積の合計は野球場の広さぐらいになります。
8−2.ポリマーゲル
HPLCの初期の頃はカラムといえばシリカカラムのことでしたが、最近ではポリマー(高分子)のゲルを充てんしたポリマーカラムも使われるようになってきました。一般的なポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどがよく知られていますが、ShodexのHPLC用ポリマーゲルとして用いられているものには次のようなものがあります。
1)ポリスチレン(正確にはスチレン・ジビニルベンゼン共重合体)
2)ポリ(メタクリレート)
3)ポリ(ヒドロキシメタクリレート)
4)ポリ(ビニルアルコール)
ポリマーゲルの場合もシリカゲルと同様、粒度が細かく細かい孔の開いたポーラスポリマーが用いられます。
8−3.その他のゲル
シリカゲルとポリマーゲルの他には、天然物であるセルロース、アガロース、デキストリン、キトサンなどや、セラミックスの1種であるハイドロキシアパタイトやジルコニアなどが充てん剤として用いられますが、その量は極めてわずかであり、充てん剤の種類としてはシリカゲルとポリマーゲルの2種類だけと考えても問題ないといえます。
9.分離モードによるカラムの分類
先に飲み屋横町の例で説明したように、カラムには色々な「仕掛け」が施されており、その「仕掛け」の違いにより異なった種類のカラムがあるということを説明しました。この「仕掛け」のことを「分離モード」といいます。HPLCで通常用いられる分離モードには、次のような種類があります。
1)逆相モード
2)順相モード
3)イオン交換モード
4)配位子交換モード
5)イオン排除モード
6)GPCモード
7)GFCモード
8)マルチモード
9)アフィニティモード
10)光学分割モード
これらの分離モードを用いたカラムについては第3部以下で説明します。