第1部:総論

目次

1.はじめに
2.液クロとは
3.HPLCとは
4.HPLCの構成
 4−1 ポンプ
 4−2 インジェクタ
 4−3 カラム
 4−4 検出器
 4−5 記録計
 4−6 ダンパー
 4−7 脱気装置
 4−8 カラム恒温槽
5.その他のクロマトグラフィ


(図−1)
1.はじめに

 このページは、液体クロマトグラフィおよびShodex製品の概要の説明を、初心者の方に分かりやすく説明することを目的としたものです。もともと、化学の専門知識のない営業マンの教育用に作成したものですので、理論的には多少厳密さを欠くこともありますのでご了承下さい。

2.液クロとは

 液クロ(「液体クロマトグラフィ」の略称)の歴史は20世紀の初頭に遡ります。1906年にロシアの科学者ツウェットは植物の葉から抽出した色素を分析するために、炭酸カルシウムを詰めたガラス管の上に抽出した色素を置いて、石油エーテルを上から流し続けました。

 ガラス管ですので中の様子を外から観察することができます。時間の経過とともに色素が炭酸カルシウムの間を通って下の方へと移動していきますが、時間が経つにつれて最初は一つの層であったものが、色の異なる4つの層に分かれてきました。(図−1(b))後の研究でこの4つの層は、青緑がクロロフィルa、黄緑がクロロフィルb、黄色がキサンチン、オレンジがカロチンであることが分かりました。
 これが、液クロの発端となる発見でしたが、実際に色素が4成分に分かれてガラス管から出てくるまでに数時間が必要であり、あまり実用的な方法とはいえませんでした。液クロが実際に各方面で使用されるようになったのは、これから半世紀以上たった1970年代になってからのことです。
 「クロマトグラフィ」の「クロマト」は英語で「色」を意味する言葉で、「クロマトグラフィ」は分析技術を、「クロマトグラフ」は分析装置を、「クロマトグラム」は分析の結果得られたチャートのことを意味します。なお、蛇足ながら中国語では「液体クロマトグラフィ」のことを「液相色譜」といいます。「色譜」というのはなかなか良い訳語ではないでしょうか。

分析技術
(形がありません)

クロマトグラフィ クロマトグラフ クロマトグラム
(図−2)


3.HPLCとは

 HPLCは High Performance Liquid Chromatography の略で、直訳すれば「高性能液体クロマトグラフィ」となりますが、日本語としては「高速液体クロマトグラフィ」と言うのが普通です。
 それまではツウェットの方法のように、自然落下で溶離液(液クロによる分析の際に流される液のことを「溶離液」といいます。)を流していたので、分析が終了するまで数時間程度が必要でした。その後、改良を加えられましたが、多少の時間短縮が図られたにすぎません。このような古典的な液クロのことを「中低圧クロマトグラフィ」または「カラムクロマトグラフィ」などと呼んでいます。
 液クロが一般的に使われるようになったのは、1970年代に米国人の Jim Waters 氏が設立したWatersという会社がHPLC用の機器を開発し販売しはじめてからといえます。Waters社では高圧ポンプを用いて高速で溶離液を流す方式を採用したため分析に必要な時間が驚異的に短縮されることとなり、ここにHPLCの時代がスタートしたわけです。このようなクロマトグラフィのことを「中低圧クロマトグラフィ」に対して、「高圧クロマトグラフィ」(High Pressure Liquid Chromatography) と呼び、HPLCはこれの略称とされたこともありましたが、現在ではHPLCはHigh Peformance Liquid Chromatography の略称であるととされています。また、ガラスカラムの中の変化を目視で観察するツウェットの方法とは異なり、検出器を用いて記録紙の上にチャートを記録するという方法に変わりました。ツウェットの実験を記録すれば(図−3)のようなチャート(クロマトグラム)になります。
(図−3)


 その後、しばらくはHPLC装置といえばWaters社の装置のことを意味する時代がしばらく続きました。Waters社はいまでもHPLCのパイオニアとして活動を続けていますが、現在ではWaters社以外にも、各社のHPLCが製造・販売されていることはご存じのとおりです。Waters社の初期のHPLC装置による分析時間は、現在のHPLCに比べれば高速とはいえませんが、当時としては画期的に高速であったといえます。その後、装置の改良が加えられてきており、当初のHPLCに比べれば現在のHPLCは更に高速・高性能なものとなっています。
 なお、単に「LC」といえばLiquid Chromatography の略で「液体クロマトグラフィ」または「液クロ」のこととなります。 「LC」や「液クロ」という言葉にはHPLCの他に「中低圧クロマトグラフィ」等も含まれますが、 現在では、HPLCが圧倒的に普及していますので、「HPLC」と同じ意味で「LC」あるいは「液クロ」という用語を使っている場合も多いようです。

4.HPLCの構成
(図−4)

 HPLCのシステムは次の(図−4)に示す部品によって構成されます。

 以下、各部品について説明いたします。


4−1.ポンプ

 ポンプはHPLCのシステムの最上流に設置され溶離液瓶中の溶離液をシステムに送り込みます。HPLCの開発当時は最高圧力が高いことが重要でしたが、現在では高圧で使用できることは当然のことで、どのような使用条件でも圧力の変動が少なく、一定の流速で溶離液を流せることが求められています。溶離液の流速が変動すると測定に悪影響を与えます。
 ほとんどのポンプは、ピストン運動のような往復運動を利用しているため、往復運動の周期に応じた周期的な圧力変動(これを脈動といいます)があり、この脈動を減らすための様々な工夫が考案され、現在のポンプは脈動が常に少ないものになっています。しかし、昔では考えられなかったような微量の試料を高感度で分析するようなことも行われており、わずかな流速の変動が測定に影響を与えることもあります。したがって、高感度分析に用いられるポンプにはより高精度なものが必要とされています。

4−2.インジェクタ

 インジェクタはポンプの次に設置され、ここから分析しようとする試料をシリンジという注射器のようなもので溶離液中に注入します。
  なお最近では、多数の試料を連続的に一定間隔で注入することのできる、オートインジェクタ(オートサンプラ)も数多く用いられています。

4−3.カラム

 ツウェットの実験で用いられた、炭酸カルシウムをガラス管に詰めたものと原理的には同じですが、ガラス管ではなくステンレス管のものが用いられ、中に詰められるものとしてはシリカゲルやポリマーゲルなどが用いられています。カラムはこの中で試料の分離が行われるという意味でHPLCシステムの中で最も重要な部品ともいえます。
 HPLCで用いられる溶離液には、酸性のものからアルカリ性ものまで色々な溶離液がありますが、ステンレスは各種溶離液に対する耐食性に優れていますので、HPLC用カラムはほとんどがステンレス製です。しかし、生化学やイオンの試料の分析の場合には試料が金属に触れることが嫌われることがあり、その場合にはガラスカラムが使用されることもあります。
 最近では、新素材であるPEEK(ポリ(エーテルエーテルケトン)樹脂)が、ガラスやステンレスに代わる素材としてHPLC用カラムの主流となるのではないかと言われたこともありました。しかし、PEEKは加工が難しくカラムサイズを一定にすることができませんので、ステンレスカラムが主流という状況は当分変わることがないものと思われます。生化学やイオンの測定にステンレスカラムが本当に悪影響があるのかどうかも不明で、これらの分析用にもステンレスカラムで問題ないという意見も多いようです。

4−4.検出器

 試料の分離はカラムの中で行われますが、分離された結果を見える形に変換するためのものが検出器です。試料が含まれていない溶離液の組成は一定ですが、溶離液に試料中の成分が含まれていると組成が変わってきます。この変化を電気信号として取り出すためのものが検出器で、検出方法の違いによりいくつかのタイプの検出器があります。各検出器の詳細については後で説明します。

4−5.記録計

 検出器で検出された結果は電気信号として出力されますので、まだ目に見える形にはなっていません。これを目に見える形にするために、従来はペンレコーダーのような記録計が用いられてきましたが、現在ではコンピュータを利用したデータ処理器(インテグレータとも言います)が利用されています。データ処理器にはプリンターを内蔵したワープロのような形の簡易型のものから、ディスプレイ、キーボード、プリンターが独立したパソコンのような形のものまで、色々な種類があります。また、最近ではパソコンに使用できるHPLC用のソフトウェアだけを販売している場合もあります。

 以上のものが、HPLCとして最低限必要な物です。この他にも次のような機器が用いられています。

4−6.ダンパー

 昔のポンプは脈動が大きかったため、脈動を取るためにダンパーを使用していました。現在では、ポンプにダンパーが内蔵されていたり、ポンプそのものの性能が向上したため、ダンパーは以前ほどは使用されていませんが、場合によってはダンパーの使用が有効といえます。

4−7.脱気装置

 HPLCで使用される溶離液の中には、目には見えない酸素その他の気体がわずかですが混入しています。このような気体が含まれていると、検出器で検出する段階でノイズとなり、ベースラインが安定しない原因となります。溶離液から混入している気体を除くには、ヘリウムガスや、アスピレータを用いる方法などがありますが、これらの方法では溶離液を使用する度に脱気を行わなくてはならず手間がかかります。脱気装置を用いれば、溶離液がポンプに送られる途中で脱気装置を通る時に溶離液中の気体が取り除かれますので非常に便利です。

4−8.カラム恒温槽

 HPLC分析は温度によって分離がかなり変わってくることがあります。例えば糖の分析は60〜80℃程度の高温で分析される場合が多いので、このような場合には、カラムをカラム恒温槽内に設置して測定を行います。

 なお、HPLC用の製品のほとんどは互換性があり、例えばa社のポンプとb社のカラムとC社の検出器を組み合わせて使用するということも可能です。Shodexのカラムの場合も、どの装置メーカーのHPLCシステムにも使用できます。

5.その他のクロマトグラフィ

 現在では、液クロといえばほとんどの場合HPLCのことを意味し、中低圧クロマトグラフィは一部の分取用として用いられているに過ぎません。
 液クロ以外のクロマトグラフィのなかで、液クロと並んでよく用いられている分析技術としては、ガスクロ(ガスクロマトグラフィの略語)があります。
 液クロの場合はポンプで溶離液を流してますが、ガスクロの場合は液体ではなく気体(「キャリアーガス」と呼んでいます)を流しています。ガスクロでは高圧ガスボンベに封入されたガスを用いますので、液クロのようにポンプを必要としません。したがって、装置が非常にシンプルですので液クロより早く実用化されました。一時は、クロマトグラフィといえばガスクロのことを意味する時代もありました。
 しかし、ガスクロではキャリアーガスを用いるという点が、装置化が容易という点で利点でもあり、逆に欠点でもありました。ガスクロで測定を行う場合には、試料もキャリアーガスに混ぜられる前にガス化(気化)されていなければなりません。もともとの試料が気体の場合にはガスクロは非常に便利ですが、通常の試料は液体または固体のものが多く、液体または固体を気化させるということは、いわゆる蒸発させるということで、温度を上げることになります。水の場合で言えば 100℃以上に加温することで気化(蒸発)が行われます。しかし、試料のなかには気化するほど温度を上げた場合には元の成分とは異なるものになってしまう場合があります。生体成分などは加熱した場合には変質してしまいます。このように、試料を高温にしなければ分析できないという点がガスクロの大きな欠点といえます。
 また、これに関連したことですが、ガスクロでは測定できる分子量に上限があり、高分子の測定には適していないという点も欠点といえます。
 液クロの場合は、試料が液体の場合はそのまま分析できますし、試料が固体の場合でもその試料を溶かす液体をみつければ測定が可能となります。水には溶けない試料でも、有機溶媒(例えばシンナーのようなもの)には溶ける場合も多く、たいていの試料はなんらかの液体に溶かすことができます。このように、液クロの場合は試料を変質させない常温での分析が可能であり、ガスクロの利用範囲が限られていたのに比べ、ほとんどあらゆる試料に適用できる汎用性のある分析手法として広く利用されるようになりました。現在では、液クロの使用台数がガスクロの使用台数を大きく上回っています。
 ガスクロの他には、薄層クロマトグラフィ、超臨界クロマトグラフィ、ペーパークロマトグラフィ、向流分配クロマトグラフィ、パーフュージョンクロマトグラフィなどがありますが、これらはガスクロに比べてもわずかしか利用されていません。