Shinoセンパイ、新品のアミノカラムなのに、テストクロマトグラムに比べて、とってもピークがブロードなんです。このカラムは不良品なのかしら?
まず、測定条件を調べてみましょう。
特に、間違っていないと思うんですけど・・・。
- カラム
- :Shodex Asahipak NH2P-50 4E
- 溶離液
- :アセトニトリル/水=75/25
- 流速
- :1.0 mL/min
- 検出器
- :RI
- 温度
- :30 ℃
- サンプル
- :フルクトース、グルコース、マルトース、スクロース 各1 %
サンプルの濃度が高いわねぇ。何に溶かしてるの?
水に溶かしてますけど、ダメですか?
絶対ダメ。取扱説明書のサンプル調製のところ、読んだ?
えー、取扱説明書ですかぁ。どこかにあると思いますけどぉ。・・・あ、あった。『サンプル調製・・・固体試料は水で溶解後、アセトニトリルを加えて、50 %以上のアセトニトリル水溶液とする』って書いてありますけど、こんなの気がつかなかったわぁ。
糖は水に溶けるわよね。アセトニトリル100 %ではどうかしら。
溶けないと思うわ。
75 % アセトニトリルの溶離液の場合は?
やっぱり、溶けないと思います。それじゃあ、カラムの中で糖が析出して、ピークがブロードになったのかしら。
いい機会だから、ちょっとしたチェックをしてみましょうよ。糖を溶かす液に少しずつ、アセトニトリルを加えてクロマトグラムを比較してみましょう。
そして、次の日
Shinoセンパイ、不思議!! こんなに違いがあるんですよぉ(図1)。
ついでに理論段数も比較してみましょう。
まぁ、アセトニトリルを入れないでサンプル調製するのって、こんなに理論段数が低くなるんですね。やっぱり、水に糖を溶かすだけだと、ダメなんだわ。がっかり。
そうよ。理論段数が低いってことは、つまり?
分離が悪くなるってことです。
検出感度はどうかしら?
ノイズレベルは変わらないのだから、検出感度が低くなって、分析の精度が落ちるってことですね。
さて、読者の皆様のために。溶離液は75 % アセトニトリルなのにどうしてサンプルを溶かす液は65 %までしか試さなかったの?
70%以上のアセトニトリルだと、糖が析出して白濁したんです。
65 % アセトニトリルまでなら、トータル4 %程度の糖は析出しなかったのね。これはとっても有用な情報だわ。
Shinoセンパイ。有用情報をもうひとつ。糖の粉末に直接、65 % アセトニトリルを加えても溶けないんですけど、水に溶かしてからアセトニトリルを加えれば、65 %までOKでした。
一旦、溶け易い溶媒にサンプルを溶解させてから、溶離液で希釈するっていう方法は、ほら、何か思い出さない?
う~ん、デンプンをDMSOに溶かした時ですか?あの時は確かDMSOを加えてから120 ℃に加熱して溶かしたんですよね。それから溶離液の0.1 M 硝酸ナトリウム液で希釈してサンプルにしたんでしたっけ?
あの時も、サンプルの溶かし方で苦労したわねぇ。
でもどうしても、サンプルを溶かす液にアセトニトリルを入れないと、ダメなのかしら。水に溶かしても注入量が少なければ、うまくいくような気がするんですけどぉ・・・。
まぁ、スルドイわ。やってみましょうよ。
は~い。
そして、また次の日
このサンプルだと、注入量を5 μLまで減らせば、結構いいクロマトが採れてますよ。でも、ほら、30 μLだと、ピーク割れしちゃうんですよね(図3)。これって、カラムの入口側に隙間が出来た時みたいなパターンですね。
糖の分析に詳しければ、アノマー分離が起きているんだと思うかもね。こういう勘違いって、原因がつかめなくて苦労するのよ。
わたしの記憶が正しければ、せっかく『アミノカラムは、室温でも糖のアノマー分離が起きにくい』っていう長所があるのに、誤解されちゃいますよね。
そうよね。他のカラムだと、アノマー分離を押さえるには、70~80 ℃の高温での測定が必要ですものね。なぜ、アミノカラムだと室温でもアノマー分離が起きにくいと思う?
還元末端のを持つ糖は、αとβアノマーのふたつの形が存在するから、これがカラムの中で分離されるのをアノマー分離っていうんですよね。温度を高くすると、α、β間の変換スピードがとっても早くなって、カラムで分離されなくなるんですよね。でも、アミノカラムの場合はどうして室温でもアノマー分離が起きないのかしら。
アミノカラムは、充てん剤にアミノ基がついているから、カラム内雰囲気がアルカリ性なの。アルカリ性の条件だと、変換スピードが変化して、アノマー分離が起こりにくくなるみたいなの。
やっぱり変換スピードは早くなるんですか?
それはまだ解明されていないみたい。いずれにしてもアミノカラムは、室温でも使用できる、とてもいいカラムなのよ。アミノカラムのような順相や、逆相カラムでのより良い分析のためには、サンプルは極力、溶離液に近い組成の溶媒に溶解しましょうね。