長期間停止させていた装置を稼動させる前、又は、初めてHPLCシステムを使用される皆様に最低限これだけはご注意いただきたいという点をまとめましたのでご参考になれば幸いです。
現在ご使用中の測定系から異なる測定系に条件変更される場合(例えばカラムの種類を変更する場合や非水系から水系の溶離液に変更する場合など)は必ずHPLCシステム全体を新しい溶離液で充分洗浄した後、『3. カラム接続時の注意』の項目から実施されることをお勧めします。
なお、皆様の研究室でHPLCシステムの動作チェックを実施される場合にはこのチェックリストだけでは不充分です。必ず各装置やカラムに添付されている取扱説明書をご参照くださいますようお願い致します。
チェック時の基本的な考え方
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(1)カラムを接続しない状態での装置自体の動作チェックから始めます。万一、装置にトラブルのある状態でカラムに溶離液を流すとカラムの性能を低下させる恐れがあります。特にカラムより上流側にある装置のチェックに重点を置いてください。
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(2)装置に問題がないことを確認した上で、はじめてカラムを接続し所定のカラム性能が得られるかどうかをチェックします。
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(3)(1)、(2)が完了した後で分析を開始します。
1. 電源を入れる前に
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チェック項目 |
チェック方法 |
トラブル時の対策 |
配管連結部に緩みはないか? |
- 接続部に塩が析出していないかチェックする。
- 指で触れてみて(工具を使用せずに)接続部のネジに緩みがないかどうかチェックする。
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(1)塩の析出している接続部は一旦分解して塩を洗浄除去した後、締め直す。
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(2)緩んでいるネジは増締めする。
または必要に応じて新品と交換する。
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装置からの液漏れはないか? |
- 装置の底部、装置を置いてある机上に液漏れ、もしくは塩の析出がないかどうかチェックする。
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(3)接続部以外から液漏れしている場合は直ちにメーカーに連絡する。
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2. カラムを接続する前のチェック
①電源コードはコンセントに差し込まれているか
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チェック項目 |
チェック方法 |
トラブル時の対策 |
全ての装置は作動するか? |
- 電源スイッチをONの状態にしたにした時にスイッチランプの点灯または画面への表示などが正常に作動するか?
- 自動診断機構の付いた装置の場合は診断結果をチェックする。
- 異常音を出していないか?
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(1)電源コードはコンセントに差込まれているか?
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(2)電源コードの断線の有無をチェックする。
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(3)ヒューズが切れている場合は交換する。
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(4)アラームが出た場合は取扱説明書にしたがってチェックする。
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ポンプは送液しているか? |
- ポンプ出口から液が吐出されるか 。
- ポンプの底面から液が漏出してこないか。
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(5)プランジャーが折れている場合は交換する。
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(6)プランジャー付近から液漏れしている場合はプランジャーシールを交換する。
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ポンプの逆止弁に損傷はないか? |
- ポンプのアッパーリミッターを20MPaに設定しポンプの出口に密栓をする。
0.1mL/min程度で送液しすぐに20MPaに到達してポンプが停止するかどうかチェックする。
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(7)圧力が20MPaに到達するのに時間を要する場合はポンプの逆止弁のところで溶離液が逆流している可能性があるためポンプヘッドの分解掃除、もしくはポンプヘッドの交換をする。
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溶存ガス除去装置、ポンプ、インジェクタの接続部もしくは内部配管の緩みにより空気を吸い込んでいないか? |
- インジェクタの出口(カラムに接続する配管)に透明なチューブ約1m(内径1mm程度)を差込んで接続し直径10cm程度のコイル状に巻く。このコイル状のチューブを観察し気泡が出てこないかどうかチェックする。
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(8)外部に露出している接続部のネジを増締めする。
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(9)溶存ガス除去装置やポンプ内部の配管に緩みが生じている可能性がある場合は直ちにメーカーに連絡する。
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ポンプの流速は設定値通りか? |
- 10分間の吐出溶液の重さ(または容量)を計る。これを数回繰り返し再現性をチェックする。
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(10)ポンプヘッドに気泡が入っている場合は充分脱気したアセトン等を流して気泡を除く。
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カラム恒温槽は正常に作動するか? |
- 恒温槽の中央部に温度計を差込み温度が安定した時に設定温度と大きくずれがないかどうかチェックする。温度変動の有無もチェックする。
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(11)恒温槽内部のファンは回っているか。
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(12)温度が上がらない場合、または昇温の続く場合はメーカーに連絡する。
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検出器の配管に詰まりはないか? |
- 検出器の入口側に溶離液を満たした注射筒(10mL)を接続し、ゆっくり液を押しだして検出器に詰まりがないかどうかチェックする。万一、注射筒を接続するための器具が手元にない場合は通常の流速の約半分の流速で送液し配管での詰まりの有無をチェックする。
- 検出器から吐出される廃液量はポンプの設定値通りか?
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(13)検出器の配管は内径が細いため塩が析出して詰まり易い。検出器入口側の配管が詰まった場合はカラム圧力が高くなりカラムを損傷する恐れがある。また出口側が詰まった場合は検出器の内部配管が破裂するので異常がある側の配管を少し切り落とし低流速で洗浄する。
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(14)検出器内部での液漏れの可能性がある場合は直ちにポンプを止めメーカーに連絡する。
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3. カラム接続時の注意
以上のHPLCシステムのチェックを完了後、カラムを接続します。10日間以上装置を稼動しなかった場合や新しい溶離液条件を適用する場合はカラムを接続する前にHPLCシステム全体を新しい溶離液で充分洗浄してください。
必ずポンプのアッパーリミッターを『カラムの最大使用圧力×80%』程度の値に設定してください。
溶離液がなくなった場合やカラムより上流側での液漏れが生じると急速にカラム圧力が下がります。これを検知してポンプを停止させる機能がポンプのロウアーリミッターです。ポンプのロウアーリミッターも通常使用圧力の3分の1程度に設定することをお勧めします。
4. カラムの性能チェック
カラムの性能はカラム納入時に添付されている検定チャートが再現できるかにデッドボリュームが少しずつ異なるため全く同一の結果になる訳ではないことにご注意ください。
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チェック項目 |
チェック方法 |
トラブル時の対策 |
カラム接続後、HPLCシステム全体の流路系にトラブルはないか? |
- カラム接続後、検出器から吐出される廃液量はポンプの設定値通りか?
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(1)カラム接続部に緩みがある場合は増締めする。
必要に応じてオシネジを新品と交換する。
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(2)(1)で解決しない場合は2の項目を再度チェックする。
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検出器の設定は正しいか? |
- 検定チャート中の何れかの成分(もしくはその測定条件で必ずピークが得られることが分かっている成分)をサンプルとして注入し、検出器の応答があるかどうかをチェックする。
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(3)信号ケーブルが外れていないか、信号ケーブルの断線の有無をチェックする。
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(4)RI検出器の場合はリファレンスとサンプルセルの連結をOFFにする。
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(5)UV、蛍光検出器の場合は設定波長をチェックする。
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(6)検出器のポラリティをチェックする。
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カラム性能は低下していないか? |
- カラム納入時に添付されている検定チャートと同一の条件での測定を実施する。
カラム圧力は?
理論段数は?
ピークの溶出時間は?
ピークの対称性は?
これらがある程度再現できるか?
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(7)再現できない場合はまずサンプルを作り直す。
それでもだめな場合は溶離液を作り直す。
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(8)ピークがブロードな場合はまずカラムの出口および入口のオシネジを新品に交換する。
カラムの種類によりオシネジのフェラル下の長さが微妙に異なることがある。フェラル下に隙間があくような場合にはピークがブロードになることがあるため、新しいオシネジを用いて隙間ができないように接続し直す必要がある。
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(9)(7)、(8)で解決しない場合はカラムの取扱説明書にしたがってカラムの洗浄を実施する。
取扱説明書に特に指示のない場合はNews Letter
No.2のSOS欄に示したカラム洗浄方法をお試しください。
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検出器のラフチェック→検出器の性能のチェックは取扱説明書をご参照ください。 |
- ベースラインのノイズが測定を妨害するか?
ノイズ形状は規則的か?(例:サインカーブ)
ノイズの出現頻度は?
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(10)規則的ノイズの場合。
50(60)回/分→アース線断線の有無をチェックする。 数10回/分→ダンパーを取付ける。
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(11)不規則なノイズの場合は溶離液の脱気を充分に実施する。検出器のランプ寿命が原因だと思われる場合は交換する。
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