食欲の秋。有機酸は"味"を構成するファクターのひとつです。
さて今回は、有機酸分析の原理について考えてみましょう。
Shinoセンパイ、ワインの中の有機酸測定をしたいんですけど有機酸分析計 Shodex OA(販売停止)の原理を教えてくださ～い。
装置の基本はポストカラム反応系だから・・・
カラムから出てきたところで反応液を加えるんですね。
もし測定するサンプルの中に有機酸しか含まれていないのなら、反応液は必要ないわ。RIやUVの210 nmで検出すればいいの。でもね、たいていのサンプルの中には糖やアミノ酸のような夾雑物があるでしょ！？
それで反応液を加えて有機酸の選択検出をしているんですね。
その通り。pH指示薬が有機酸によって発色する原理を応用しているのよ。有機酸測定用カラムRSpak KC-811の溶離液は？
過塩素酸やリン酸水溶液です。これは酸性ですね。
反応液はpH指示薬を含むアルカリ性溶液なの。ほら、廃液が薄い紫色をしているのを見たことない？Shodexが採用しているpH指示薬のアルカリ性での吸収スペクトルは図の(B)よ。
ここにサンプルの有機酸が流れて来ると、吸収スペクトルが(A)に変わって・・・それで吸収スペクトルの極大付近の430 nmで有機酸を検出するんですね。
そうよ。それにpH指示薬を利用する特長のひとつとして、一般にモノカルボン酸に比べてジカルボン酸は感度が2倍になるわ。
カルボキシル基の量に比例して感度が高くなるわけですね。
おまけに(B)の状態だと430 nmの光がほとんど透過して、吸収がほとんど無いの。このpH指示薬は、有機酸を測定する波長でバックグラウンドが小さい、つまりノイズが小さいから、感度良く測定できるなかなか都合の良いpH指示薬なのよ。
でも、有機酸が来たときにちょうど吸収スペクトルが(B)から(A)にパッと変わるようにpHを調整するのは大変だわぁ。
Shodex OA(販売中止)には濃縮反応液ST3-R(販売中止)を使えば簡単よ。ワインを分析する時の溶離液には3 mMの過塩素酸を1 mL/minで流すのだから、反応液は10倍希釈したST3-R(販売中止)を 0.7 mL/minで流せばいいわ。
そういえば同じお酒でもビールを測定する時は4.8 mMの過塩素酸を溶離液にしていますよね。似たような有機酸を測定しているのに溶離液の濃度を変えるのはどうしてかしら。
それには、カラムでの有機酸分離の原理を考えなくちゃ。KC-811にはポリスチレン系の強陽イオン交換樹脂をH型にしたものが充てんされているんだけど・・・
－SO3-H+ですね。有機酸はカルボキシル基 (-COOH)を持っているのに、どうしてイオン交換するんですかぁ？
イオン排除なのよ。
陰イオンと陰イオン同士の反発ですか？
溶離液に過塩素酸のような酸性溶液を使うと、有機酸は少しだけ解離しているわけ。よく解離している酸は充てん剤のスルホ基と強く反発しあって早く溶出されるの。反対に解離の少ない有機酸ほど反発が小さいから遅く溶出されるのよ。
だから、塩酸みたいな強酸は一番初めに出てくるんですね。
KC-811はイオン排除が主な分離モードだけど、この他に分配吸着も関係しているから複雑な分離モードなのよ。
イオン排除がメインだということは、分離の調整には有機酸の解離状態を変えればいいわけですね。それで溶離液の濃度、つまりpHを変えて有機酸の解離状態を調整しているんだわ。それにしても溶離液の濃度が1 mM違うだけで有機酸の溶出順序も変わるんですね。
有機酸の解離状態は温度の影響も受けるわよ。5 ℃の違いが大きく影響する場合もあるから注意してね。
複雑だなぁ～。
でもね、普通、サンプルの組合せが変わったらカラムを変えないとどうにもならないケースが多いわよね。KC-811は分離条件をちょっと変えるだけでいいんだから、便利だと思わない？
そうですね。分配吸着が効いているような時には、溶出を早めるためにメタノールを溶離液に加えるだけでいいんですものね。
酸性下でアルコールは有機酸とエステルを作ることがあるから、溶離液に添加する有機溶媒には、アセトニトリルを使用してくださいね。ただし10 %までよ。
これで有機酸分析も完璧ですね。
ではここで質問です。食塩 (NaCl)も塩酸と同じ位置に出てくるんだけど、どうしてだか分かる？
えー、難しい！！、カラムは陽イオン交換樹脂なんだから、Na+がつかまって、NaClはHClになっちゃうんですか？
まぁ、ちゃんと分かっているじゃない。だからサンプルにNa+のような陽イオンが入っているとカラムが劣化するわけ。それにNaClだけじゃなくて、有機酸はたいてい金属塩の形で存在している場合が多いから、サンプルを注入する度にイオン交換基が少しずつ、H型から金属イオンがついた形に変化して、カラムが劣化するってわけ。
わかりました。カラムの劣化を防ぐために、必ずガードカラムを使用します。
それにKC-811は有機溶媒を10 %までしか使えないから、色素のように充てん剤に吸着する成分を洗浄することが難しいの。色がついていたり、金属イオンを大量に含むサンプルの場合はガードカラムには、KC-G (4.6 × 10 mm)よりもKC-LG(6 x 50 mm)のような大きなサイズがいいわ。
は～い、ワインの分析に挑戦してみますね。