Shinoセンパイ、今度は何のチェックリストを作りますか?
溶出時間が変動する場合をまとめてみましょうか?
はい、装置から始めます。一番多いのは、フローラインのどこかでの液漏れですね。これは、フローラインを順に辿っていけばすぐわかりますね。次に多いのは、ポンプのチェック弁の異常ですね。どっちの場合もクロマトグラム全体が遅く出て来るから、わかりやすいですよね。
ポンプのチエック弁に塩が析出したり、ゴミが付着したりして、チエック弁が正しく働かないで液が逆流してしまうからなのよね。だから必ず溶離液は0.45ミクロンのフィルターでろ過してから使うようにしましょうね。
はぁーい。でもねShinoセンパイ。いちいちろ過するのは面倒だし、溶離液吸い込み側にインレットフィルターが付いているからいいんじゃないですか?
インレットフィルターはだいたい、2ミクロンより小さなゴミは通してしまうし、チェック弁を詰まらせてしまうと、掃除がとっても大変なんだから……
知ってますよ、Shinoセンパイ、チェック弁を分解掃除したことないでしょ?!先輩に聞きました。Shinoセンパイは、チェック弁を新しく買っちゃうって。
先輩って、いじわるねぇ。でも本当にチェック弁の分解掃除って難しいの。分解掃除すればするほど、悪くなるっていうのが、私の経験ね。
Shino先輩は不器用ですからね。これはやっぱり、ポンプのメーカーに洗い方を相談した方がいいですね。
そうね、ポンプヘッド全体を洗剤液やアセトン中で超音波洗浄しても、直らない時は、チェック弁の分解掃除方法をメーカーに聞いた方がいいわね。だから溶離液は、毎日つくり直して、新しくろ過したものを使いましょうね。
はい、わかりました。
ゴミや塩の他には、エアの小さな粒がポンプヘッドに溜まっている時も溶出時間が変動するわね。
あ!水系の溶離液の時に多いですよね。溶離液を交換したり、溶離液の種類を変えたり、脱気が不充分な水/メタノール溶離液の時なんかに起こりますね。これは、充分に脱気したメタノールでポンプの中を置換すると、直りますよね?
それでいいわ。でも溶離液が塩溶液だったら、メタノールを流す前に純水で置換してね。塩が析出して、ポンプのチェック弁が傷ついちゃいますからね。
それに、メタノールで置換洗浄した後は、脱気した純水、溶離液の順に流すこと、でしょ?! 溶離液が有機溶媒の時は、アセトン洗浄でいいですか?
使っている溶離液とアセトンが混和するならOKよ。
あとは、溶存ガス除去のために脱気装置(溶存ガス除去装置)を使えば、めでたしめでたしですね。
……ポンプ関係はこれでいいかしら。
いいんじゃないですか?他の装置といえば、カラムオーブンですか?
そうね、カラムオーブンの精度が効くこともあるわね。例えば、充てん剤の官能基やサンプルイオンの解離状態は温度に依存しているんだし……
カラムオーブンだけじゃなくて、GPCの場合だと、ポンプヘッドの温度変動が、溶出時間の変動に効くんでしたよね。
そうよ、よく憶えていたわね。
Shinoセンパイ、サンプルの濃度や注入量が、溶出時間の変動に影響するのは、GPCの時だけですか?
どんな分離モードの時も影響があるわよ。溶出時間が変動した時はサンプルの濃度や注入量が原因かどうか、調べる必要があるわね。今の状態よりもサンプル濃度を薄くして、注入量を減らした時にクロマトグラムが変化するかどうか、それで確かめればいいわ。
溶出時間、つまりクロマトグラムの形に影響しないサンプルの濃度や注入量が、適当だというわけですね。
よく勉強したわね。それから、溶離液はどうかしら。
溶離液の組成が違えば、溶出時間は変わりますよね。昨日と分離が違う時は、要注意ですね。
溶離液をつくり直した時。試薬メーカー、グレードを変えた時。前に話したっけ?クロロホルムには安定剤としてアルコールが入っているんだけど、メーカーによって入っているアルコールの種類や量が違うのよ。これが結構、分離に影響を与えたりするんだ。
それは知りませんでした。気を付けます。それから、溶離液を作る人が違う時も要注意ですね。ちょっとした違いが分離に効くことって多いですものね。
よくある例は、50 % メタノールの話ね。メタノールを 500 mL量り取った上に純水を足して1000 mLにするのか、その逆なのか、という話。
私はメタノール500 mLと純水500 mLを別々に量って、混合しますけど。
それがポピュラーだけど、溶出時間の変動をなくすためには、いつもと同じ作り方をすることが、肝心なのよ。
そうですね、2 mMのバッファー+10%メタノールっていう例も、バッファー濃度が終濃度なのかどうかは重要ですね。
それに、沸点が違う溶液を混合する溶離液の場合、水/メタノールの場合なんかがそうね。脱気装置を使うのはもちろんだけど、事前にアスピレーターで溶離液を減圧脱気すると、早くベースが安定するの。それでよくアスピレーターで減圧脱気をするんだけど、逆に脱気の時間が長すぎると、それだけメタノールが飛ぶから濃度が変化するのよ。ちょっと気がつかなかったでしょ?!微妙な分離の時には注意してね。
溶離液って、奥が深いんですね。
さて、いよいよ次はカラムの場合ですが、これは次号でご紹介しましょう。
前号より続く
Shinoセンパイ。溶出時間の変動に関して、カラム側の要因を考えてみましょう。
なんといっても、カラムの劣化が一番ね。劣化といってもいろいろあるけれど、一つの例として、不純物がカラムに蓄積した場合、この不純物とサンプルとの相互作用が原因でサンプルの溶出時間が変動するから注意してね。
不純物って、何ですか?
タンパク質や脂質、色素が吸着・蓄積することもあるし、イオンが原因の時もあるわ。カラムの種類やサンプルによって違うから、一口で言うのは難しいけど。要は、本来ならサンプルは充てん剤との相互作用で分離するはずなのに、カラムに蓄積した不純物の層との相互作用が働いて、溶出時間が変動するっていうわけ。
不純物の層がイオン交換基の働きをしたり、分配吸着の固定相になったりするわけですね。
不純物がイオンの場合は、充てん剤のイオン交換基の対イオンを置き換えてしまうことで、充てん剤の機能を妨害することもあるわ。H+型のカラムがNa+型に置き換えられて、カラムを劣化させたことあるでしょう?!
イオン交換容量が落ちちゃうってことですね。でもそれなら、カラムを再生すればいいんじゃないですか?
もちろん、まずはカラムの取扱説明書にしたがって、カラムの再生をしてくださいね。
カラムの再生後に、検定チャート通りのクロマトグラムが再現できれば、いいわけですよね。
でも、蓄積している不純物の種類によっては、再生できない場合も多いわね。
それでサンプルの前処理が必要なんですね。
サンプルの前処理の代わりに、ガードカラムを頻繁に交換するという手もあるわ。どちらが便利で有用かは、費用や手間、分析の目的によるわね。
これで、完璧ですね。
まだまだ、グラジエント分析のことを忘れているよ。
あ!先輩。グラジエントですか?
逆相や、イオン交換モードでグラジエント分析する時に気がつかないかな?
グラジエント分析の時は、少々の溶出時間のずれは仕方ないと思ってたんですけど。それって、間違いですか?
それじゃあ、グラジエントの各ステップを考えてみよう。
最初に、追い出しバッファーでカラムを充分に洗って、何も出てこないのを確認します。次に、サンプルをカラムに吸着させるための初期バッファーで、カラムを平衡化して、サンプルを注入して、適当なグラジエントをかけて、最後に追い出しバッファーを流してカラム洗浄をするんですよね。
それから?
それから、またカラムを平衡化して、サンプルを注入するという繰り返しです。
カラムの洗浄時間は、どうやって決めている?
何も出てこなくなるまで流します。
ふむふむ。それじゃあ、カラム平衡化の時間はどうやって決めている?
ベースラインが平らになったら、平衡化が完了したって考えるんじゃないんですか?
検出器には何を使っているのかな?
普通、UV検出器ですよね。
例えば、イオン交換カラムの場合を考えてみよう。UV検出器のベースラインが平らになるというのは、イオン交換基がすべて活性な状態に戻ったという指標になるのかな?
そう言われてみると、ベースラインが平らだというのは、必ずしもイオン交換基がすべて活性な状態に戻ったという証明にはなりませんね。UV吸収のあるものが溶出されていないというだけですものね。それじゃあ、ずべてのイオン交換基が活性になる点をどうやってみつければいいんですか?
サンプルを注入する時点での活性なイオン交換基の量が、いつも一定なら再現性がでてくるよね。
わかったわ。カラムの平衡化時間を一定にすればいいんですね。
カラムの洗浄時間と、カラムの平衡化時間をそれぞれ一定に保つ必要があるね。
センパイ。じゃあ、オートサンプラーを使って、いつも同じサイクルでサンプル注入して、グラジエントをかければ問題ないわけですね。
溶出時間の変動要因は、なかなか手強かったね。これからは、再現性の高いデータをとってくれることを期待してるよ。
はぁーい。期待してくださいね。
という訳で、Shinoチャンと後輩合作の「溶出時間の変動チェックリスト」お役に立てば幸いです