イオンクロマトグラフィー

後輩

Shinoセンパイ、ノイズフィルターってありましたよね。使い方、教えて下さい。

Shino

データ処理機についてるけど、どうして?

後輩

やけにノイズが大きいんですもの。電気的にノイズを取るっきゃないわ。

Shino

ちょっと待ってよ。何を測定しているの?

後輩

イオンクロマトグラフィーに挑戦しているんです。Shodexはノンサプレッサー方式を採用しているから(現在は、サプレッサー方式も採用しています。) 操作が簡単だって書いてあったので、先輩にお願いして依頼測定をやらせてもらってます。

Shino

あれ~?!もしかしてこの装置、イオン交換に使っていなかった?

後輩

そうですよ。この間はグラジエントのことでお世話かけました。

Shino

よーく装置を洗った?

後輩

よーくって、どのくらいですか?純水で30分くらい洗いましたけど。

Shino

だめよ。ほんの少しでも前の溶離液が残っていないように洗わなくちゃ。

後輩

だって、イオンクロマトグラフィーってイオン交換の親戚ですよねぇ。

Shino

もちろんモードは同じだけど。冗談じゃないわよ、ノンサプレッサー方式のイオンクロマトグラフィーがなんだか知ってるの?

後輩

エート、イオンクロマトグラフィーは微量のイオンを検出する方法ですよね。それからノンサプレッサー方式は、エート、エート…

Shino

ノンサプレッサー方式っていうのは、サンプルイオンと溶離イオンの電気伝導度の差を検出するんでしょ?!だから、低濃度の溶離液を使って感度をかせいでいるのよね。だいたい、イオン交換の時には100から500 mMの塩を使うけど、イオンクロマトグラフィーだと1から5 mMくらいだものね。濃度が2桁低いのよ。そんなところに、前の溶離液が混ざってきたら全体の電気伝導度が高くなっちゃうし、ノイズの原因にもなる訳よ。

後輩

そっかぁ。それじゃあShinoセンパイ、純水で洗っても溶離液が残るのはダンパーぐらいですよね。

Shino

ダンパーだけじゃなくて、インジェクタやユニオンのネジ山に染み込んでいる分も無視できないわ。

後輩

そんなところまで入っているんですかぁ?それじゃあイオンクロマトグラフィーは専用機にしないとメンテナンスが大変ですよね。

Shino

装置は洗わなきゃならないけれど、大変なのはそれだけなの。ノンサプレッサー方式の良いところは、その後の操作が普通の液クロと同じ考え方で、特に難しくないってことなんだから。サプレッサー方式だと、カラムを出た後で溶離液イオンを除去する装置が必要だし、これが結構大変らしいの (現在のサプレッサー方式ではご心配ありません。)純水で洗うくらい簡単じゃない?!それに、純水で装置を洗った後で不働体化処理をしておくと、もっといいわ。

後輩

不働体化ですか?

Shino

そうよ。装置のステンレス配管から鉄イオンが溶け出さないように10 ~ 20 mMの硝酸を装置に封入して一晩置くだけでOKよ。陽イオン測定の時はもちろん、陰イオン測定の時も不働体化したほうが、ベースラインが安定しやすいわよ。

後輩

よかったぁ。それなら簡単ですね。やってみます。

さて、翌日

後輩

Shinoセンパーイ。ノイズは消えたんですけどね、ピークがみんなマイナス側に出るんです。電気伝導度検出器とインテグレーターの接続は合ってるんです。助けてください。

Shino

陽イオンを測定していたんだっけ。ほら昨日も言ったでしょ、電気伝導度検出器はサンプルイオンと溶離イオンの電気伝導度の差を検出しているの。

後輩

あ!もしかして溶離イオンのほうがサンプルの陽イオンより電気伝導度が大きいのかしら。

Shino

ピンポーン!!溶離イオンのH+はどんな陽イオンより電気伝導度が高いのよ。だから陽イオン測定の時は、検出器の極性を切り替えてね。

後輩

ハーイ。 (なーんだ、簡単、簡単……)

それから、1週間

後輩

Shinoセンパーイ。またノイズが出てきました。もう、やんなっちゃたぁ。

Shino

どうしたの?

後輩

せっかく安定して測定できてたのにまたノイズが出てきたんです。それに何だか標準サンプルのピークの高さも変わってきたみたいだし……

Shino

なんか変なことしなかった?

後輩

してませんよ~。

Shino

あれぇ、このガロン瓶。5 mM 酒石酸とジピコリン酸?もしかして溶離液??

後輩

そうですよ。溶離液を1週間分まとめて作ったんです。

Shino

だめに決まってるじゃない、有機酸の溶離液でそんなことしちゃ。

後輩

どうしてですか?まさか、いつかみたいに藻が生えるって言うんじゃないでしょうね。

Shino

その通り。バクテリアのせいよ。

後輩

え~、そんなのないわ。信じられなぁーい。

Shino

ブツブツ言わずに、作り直してね。溶離液は用時調製がベターなのよ。早く気がついて良かったわ。カラムが劣化しちゃうところだったわよ。

後輩

じゃあ、サンプルも用時調製ですか?

Shino

たぶんそうだと思うけど。あら、でも変ねえ。Naイオンだけを見ると1週間前に比べてピークが大きくなってきているわねぇ。バクテリアがNaイオンをつくるのかしら。

後輩

ねぇ、変でしょ。Shinoセンパイの学説には矛盾があるわ。

先輩

そんなことはないよ。溶離液に関してはShinoチャンが正しいね。ただしサンプルの方だけど、濃度は1 ppmくらいかな?

後輩

はい、センパイ。よくわかりますね。

先輩

原因は空気中に浮遊していたNa塩が溶け込んだからなんだよ。サンプルはストック液を用意して用時調製で希釈するといいね。ストック液の濃度は1000 ppmくらいがいいかな。もちろん冷蔵庫保存だよ。Naイオンの他には、硫酸イオンや塩素イオンを測定する時にも同じような注意が必要だね。

後輩

まぁ、イオンクロマトグラフィーって、イオン交換の親戚どころじゃありませんね。

Shino

ほんとうに、私も勉強になりました。

Shino・後輩

センパイ、ありがとうございました。