たかがODS、されどODS

後輩

Shinoセンパーイ、標準サンプルをひとつしか入れないのに、ピークがふたつ出るんですよ。ODSでキラル分割ができるのかしら。もしかしたら、世紀の大発見かもしれませんね。

Shino

どれどれ。う~ん、確かにピークはふたつだけれど、どんな条件で測定したの?

後輩

溶離液は、水とメタノールの比が1対1で、検出はUV吸収です。依頼測定のサンプルなんですが、芳香族化合物としか聞いていません。

Shino

そのサンプルに不純物が入っているんじゃないの?

後輩

コンタミしているのかなぁ。やっぱり、旋光度検出器のShodex OR-2(販売停止)を使ってみたほうがいいんじゃないですか? (キラル分割しているに違いないわ)

Shino

そのサンプルを見せてくれる?(匂いを嗅いでみて)サンプルは何に溶かしたの?

後輩

お客さまからヘキサンに溶かすようにと指示があったんです。それがいけなかったですか?

Shino

いけないわ。ヘキサンには溶けても水/メタノールで析出するサンプルかもしれないじゃない?溶解度は低くても、サンプルは原則として溶離液に溶かしてね。析出してカラムの入口に詰まってしまう場合もあるのよ。

後輩

は~い。やってみます。

しばらくして

後輩

Shinoセンパイ、ピークがひとつになりました。

Shino

よかったわね。

後輩

でも、せっかく世紀の大発見かと思ったのに…。

先輩

おやおや、何の発見をしたのかな?

後輩

ODSでのキラル分割法を発見したのかと思ったんです。考えが甘いですよね。

先輩

甘くはないさ。ODSで可能だという報告もあるんだよ。ただし、工夫は必要だけどね。

Shino・後輩

センパ~イ、教えてください!

先輩

溶離液に疎水基を持ったキラルな分子を加えておくと、疎水基がオクタデシル基に吸着して、しかもキラルな構造部分が、例えばサンプルのD体を捕まえるとするね。このD体は溶出が遅れるけれど、サンプルのL体の方は素通りするから、DL分割ができるという寸法なんだ。溶離液に加える分子としてはd-カンファースルホン酸がよく知られているね。もっとも、どんなサンプルを分離するかにもよるけどね。

後輩

フーン、賢くなっちゃった。

Shino

おもしろそうですね。今度試してみようっと。

先輩

さてさて、ふたりとも仕事の方はいいのかな。

Shino・後輩

ハ~イ

そして、夕方

後輩

Shinoセンパ~イ、今度はピークが出てこないんです。どうしちゃったのかなぁ。

Shino

ラセミ体だと、旋光度検出器 OR-2では、検出できないよね?

後輩

からかわないでくださいよ。UVで測定してますってば。

Shino

さっきの条件のままなの?

後輩

ええ。サンプルは3-フェニルプロピオン酸を、溶離液に溶かしたんですよ。

Shino

有機酸かぁ。溶離液にリン酸を0.1%くらい加えたらどうかしら。

後輩

どうしてですか。

Shino

まぁ、やってみてよ。

そして、1時間後

後輩

Shinoセンパイ、ピークが出てきたわ。不思議ですね。吸着していたのかしら。

Shino

リン酸を加える前のデータは、フロッピーディスクに保存してあるんでしょ?感度を上げて描いてみましょう。

後輩

あら~。これが、そうかな? リン酸を入れた時よりも早い時間にダラダラしたピークで溶出されてるんですね。ということは、吸着ではなくて、排除だったのかしら……。

Shino

残存シラノール基の影響らしいの。シリカシリーズのC18-5A(現:C18M 4D)は、残存シラノール基が少ないそうだから、リン酸をいれなくてもうまくいくかもしれないわ。比べてみましょう。

後輩

わぁ、おもしろい。探偵ごっこみたいですね。

さて、翌日

後輩

Shinoセンパ~イ、C18-5A(現:C18M 4D)の方は、リン酸なしでもうまくいきましたよ~。勘が当たりましたね。

Shino

勘じゃないわ。論理的と言ってよ。

後輩

C18-5A(現:C18M 4D)はシラノール基が、全然残っていないんですね。

Shino

そうかもね。

先輩

おふたりさん。さっきから聞いていたんだけど、今度こそ考えが甘いよ。「全然」とか「絶対」なんて、科学者が口にしてはいけない言葉だよ。C18-5A(現:C18M 4D)に残存シラノール基が少ないのは確かだけれど、サンプルによっては、リン酸を加えた方がいい場合もあるだろうね。

Shino・後輩

(小さくなって)ハーイ

後輩

さてShinoちゃん、サンプルが塩基性物質だったら、どうすればいいのかな。

Shino

エート、エート……。

後輩

ヤーイ、Shinoセンパイは、塩基性物質で失敗するヨ~。論理的なんていばるからですヨ~。
(後輩が笑いながら逃げていきます。きょうも、研究所は平和なのです。)

Shino

先輩が残存シラノール基やODSの上手な使い方について、説明を書いてくれたので、「ODSとシラノール」のページも読んでね。

参考文献

  • P.J.V.D.DRIEST and H.J.RITCHIE et al, LC-GC Vol.6, No.2, 124(1998)
  • J.W.DOLAN, LC-GC, Vol. 4, No.3, 222(1986)
  • H.ENGELHARDT and M.JUNGHEIM, Chromatographia, Vol.29,No.1/2(1990)